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見かけのレートと実質のレート

 レートについて考えるとき、単純に見かけのレートだけを見て、高い安いを判断するべきではないと思っています。翻訳エージェントによって、文字・ワードのカウント方法やその他さまざまな要素に違いがあり、単純に見かけのレートだけで判断することができないからです。実際のレートに影響を与えるさまざまな要素について考えてみました(私は日英案件の比率が高いので、日英案件について考えてみました)。

(1) 手離れ性
納品したあとに、再作業や確認作業などを要求されるかどうかです。一旦納品したら、翻訳者の手から完全に離れるエージェントと、ネイティブが修正した箇所に問題がないかなど、納品後の再作業を求めるエージェントとがあります。後者の場合、実際のレートは見かけのレートよりも低くなると考えられます。

(2) 文字カウントの方法
原文ベースの場合、英日のワードカウントについてはエージェントによって異なることはあまりありませんが、日英の文字カウントについては、Wordの「単語数」を文字数とするエージェントと「文字数(スペースを含めない)」を文字数とするエージェントに大別されます。たとえば、「2014年」は前者のカウント方法では2文字、後者のカウント方法では5文字とカウントされます。一般的には、後者のほうが前者よりも10~20%(平均15%)ほど文字数が多くなるので、後者のほうが実質のレートは高くなります。

「単語数」と「文字数」の文字カウントの比較
文字カウントの例:「単語数」よりも「文字数(スペースを含めない)」のほうがカウントが20%以上多い

(3)繰り返し部分の訳出要否
繰り返し部分を徹底的に翻訳対象箇所から除外してくるエージェントと、繰り返しがあろうがなかろうが、すべてを翻訳対象箇所としてカウントしてくれるエージェントがあります。繰り返し箇所の多少は案件によって大きく異なりますが、当然後者のほうが実質のレートは高くなります。

(4)翻訳を必要としない箇所のカウント
数字などを羅列した表を翻訳対象外としてごっそり文字数から除外してくるエージェントと一切除外しないで文字数に含めてくれるエージェントがあります。当然後者のほうが実質のレートは高くなります。

(5) 文字単位のカウントか枚数単位のカウントか
たいていのエージェントは、文字単位のカウントですが、400文字を1枚とカウントして枚数単位でカウントするエージェントもあります。数量がある程度大きくなると差はほとんどなくなりますが、たとえば、同じ6円/文字の場合でも、文字数が850と比較的少ない場合

文字単位: 6円/文字 x 850 文字 = 5,100円
枚数単位:2,400円/枚 x 3枚 = 7,200円

と大きな差が出ます。

(6)CAT指定かどうか
CAT指定の場合、完全一致や繰り返しは通常1円程度しか支払ってもらえません。10,000文字の案件で、レート7円/文字で新規が6,000文字、完全一致・繰り返しが4,000文字だとすると、

CAT指定:7円 x 6,000文字 + 1 円 x 4,000文字 = 46,000円
CAT指定なし:7円 x 10,000文字 = 70,000円

となり、CAT指定の場合の実質レートは4.6円となります。

見かけのレートから、実質のレートを算出するための係数について考えてみました。それぞれの項目について標準的なほうの係数を1とし、それに対するもう一方のほうの係数を設定してみました。

(1) 手離れ係数 - 納品後の再作業なし:1、納品後の再作業あり:0.9
(2) 文字カウント係数 - 単語カウント:1、文字カウント:1.15
(3) 繰り返し部分の訳出要否:繰り返しは対象から除外:1、繰り返しも対象としてカウント:1.1
(4)翻訳を必要としない箇所のカウント - カウントしない:1、カウントする:1.1
(5)文字単位のカウントか枚数単位のカウントか - 文字単位:1、枚数単位:1.03
(6)CAT指定か否か - CAT指定なし:1、CAT指定あり:0.9

レートが6円のA社と8円のB社が以下の条件の場合について、実質レートについて考えてみます。

A社:レート6円/文字、(1)納品後の再作業は一切なし、(2)文字カウント、(3)繰り返しも翻訳対象としてカウント、(4)翻訳を必要としない箇所もカウント、(5)枚数単位のカウント、(6)CAT指定なし

レート6円に上記の係数を掛けると、

6円 x 1 x 1.15 x 1.1 x 1.1 x 1.03 x 1 = 9.03円

B社:レート8円/文字、(1)納品後の再作業は必ず要求される、(2)単語カウント、(3)繰り返しは対象から除外、(4)翻訳を必要としない箇所はカウントから除外、(5)文字単位のカウント、(6)CAT指定あり

レート8円に上記の係数を掛けると、

8円 x 0.9 x 1 x 1 x 1 x 1 x 0.9 = 6.84円

見かけのレートが6円のA社の実質レートは9.03円、見かけのレートが8円のB社の実質レートは6.84円となりました。かなり極端な例を設定しましたが、ここまで極端なことはないにしても、見かけのレートが8円のエージェントよりも、見かけのレートが6円のエージェントのほうが実質レートは高いというケースは実際にあります。

見かけのレートだけで、高い安いを判断せずに、いろいろな要素をからめて考えることが重要だと思います。

(1)の手離れ性に関して、ネイティブが修正した箇所のチェックについては、フィードバックとして活用できるため、必ずしもマイナス面ばかりではありませんが、ここではレート関する影響という観点のみから考えました。


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